昨今では、生活リズムの乱れによって引き起こされる睡眠障害が問題視されてきています。
スマートホンの普及などにより、大人だけでなく小さな子供も夜更かしをする機会が増えたことで夜の睡眠時間が短くなる傾向にあります。
夜の睡眠時間が短くなると、体調不良の他にもさまざまな悪影響が生じることがわかっています。
子供の頃に夜の睡眠リズムが整わないと、将来のいろんな不適応に繋がる可能性もあります。
それを改善するために『睡眠教育』が注目されており、実際に導入している小中学校もあるそうです。
その『睡眠教育』ついての講演を聞きに行ってきたので内容を紹介します。
睡眠教育とは
睡眠教育概要
- 睡眠の大切さを知る
- 生活リズムを整える
- 様々な不調や不適応を改善
睡眠教育とは、睡眠や食事がもたらす体や脳への影響を改めて知り、正しい睡眠リズムで寝たり起きたりするように指導をする教育です。
学校が睡眠について授業を行うことで、漠然と「睡眠は体にいい」と知っていることを具体的に知識として取り入れられ、さらには睡眠に対する自己の意識も変わります。
実際に睡眠リズムを整えることで、日中に感じる体調不良やイライラするなどの不安定な心等を改善し、心身共に健やかに生活することを目的としています。
睡眠教育の始まり
睡眠教育が始まったきっかけ
- 不登校生徒の改善策
- 小児慢性疲労症候群
睡眠教育は、頭痛や腹痛、だるい、なんとなく学校に行きたくないといった理由で学校を休み続ける生徒に対しての改善策として始まりました。
医学的治療や休養によっても回復が見られない生徒たちは「小児慢性疲労症候群」の可能性があるとして、その大きな要因である「睡眠の乱れ」を整えるために始まったのが「睡眠教育」だったそうです。
小児慢性疲労症候群について
小児慢性疲労症候群とは
- 小児慢性疲労症候群とは脳の疲労によって発症
- 症状(体力や認知機能の低下、自律神経症状etc..)
- 脳の疲労原因は睡眠の乱れ
睡眠教育を知る上で“小児慢性疲労症候群”という病気は避けて通れません。
連日学校に行けなくなるほどに体調不良を起こす「小児慢性疲労症候群」とはいったいどういう病気なのでしょうか。
概要をまとめてみました。
小児慢性疲労症候群とは?
小児慢性疲労症候群とは熊本大学名誉教授の三池輝久医師らの研究によると、脳が疲労することによって発症するそうです。
睡眠や休養によっても治らず、一般的な医学検査では異常が出ないことが特徴です。
症状
ポイント
- 体力の低下、回復遅延
- 睡眠トラブル
- 頭痛、関節痛、腹痛、吐き気
- 認知機能の低下
- 自律神経症状etc...
小児慢性疲労症候群の主な症状は上記の通り。
体力低下や頭痛などの体調不良はもちろん、判断力などの認知機能が低下し、妙にイライラしたり気分の起伏が激しいなどの自律神経症状も現れることがあります。
脳の疲労原因は睡眠の乱れ
小児慢性疲労症候群は脳の疲労によって引き起こされますが、脳の疲労は睡眠の乱れが大きな要因となっています。
睡眠は脳の疲労を回復させる唯一の手段といわれています。
この唯一の手段が正常に行われないと、脳は疲労するばかりで小児慢性疲労症候群を発症していまうのです。
睡眠トラブルが起こす問題行動
年齢別睡眠トラブル問題行動
- 1歳半~就学前(無気力、視線が合わない、集団行動が困難など)
- 就学後(授業中の居眠り、友人間トラブル、成績低下、体調不良)
小児慢性疲労症候群を発症するまでにはならなくても、遅寝遅起きや夜更かしなどが習慣化して睡眠トラブルが起こると、子供たちはどういった問題が出てくるのでしょうか。
未就学児の睡眠トラブルからくる問題行動
問題行動の一例
- 幼稚園・保育園の行き渋り
- 不機嫌
- 友人間トラブル多発
- 無気力
- 自己主張が強く思い通りにならないとパニックになる
- 訳もなく攻撃的になる
- 視線が合わない
- 集団行動が苦手etc…
1歳半から小学校入学前までの子供では、睡眠トラブルによって上記の行動が見られるようです。
保育園や幼稚園の行き渋りは想像できますが、友人間トラブルが多くなったり攻撃的になったりなど、睡眠がそこまで影響を及ぼすことに驚きました。
就学後の子供の睡眠トラブルからくる問題行動
問題行動一例
- 登校の行き渋り
- 午前中不機嫌、午後から持ち直す
- 授業中に居眠り、帰宅後に仮眠
- 被害意識が出て友人間トラブル多発
- 無気力
- 成績低下
- 疲労感、倦怠感
- 頭痛、腹痛、貧血etc…
小学校入学後は脳の発達がひと段落する時期で、睡眠トラブルから頭痛や腹痛といった自律神経系の症状を引き起こす可能性があるそうです。
それだけではなく、被害意識が出て友人間トラブルが多くなるなど、心の方にも悪い影響を与える可能性があると考えられています。
睡眠トラブルの原因は体内時計のズレ
体内時計のズレについて
- 体内時計とは生体リズム
- 体内時計がズレるとは生活リズムと生体リズムのズレ
睡眠トラブルは体内時計がズレることから引き起こされるそうです。
体内時計とはよく聞く言葉ですが、ぼんやりとしかわからない人も多いのではないでしょうか。
体内時計とは何なのか、それがズレるということがどういうことなのか説明します。
体内時計とは生体リズム
体内時計とは、簡単にいうと誰もが体のなかに持っている生体リズムのことを言います。
夜間に寝て日中に活動できるように、体温や血圧、ホルモン分泌などのリズムを作っています。
この体内時計の根幹は脳にあり、周期は24時間より少し長いと考えられています。
体内時計がズレるとは生活リズムと生体リズムのズレ
我々は1日24時間の地球で生活しているので、体内時計が24時間より少し長いとなると、どこかでリセットしないと少しずつズレていきます。
朝日を浴びたり朝食をとったりすることで体内時計はリセットされると考えられていますが、ただ朝日を浴びたり朝ご飯を食べたりするだけでは正しくリセットされません。
鍵を握るのは「睡眠」なのです。
小児慢性疲労症候群を防ぐには
小児慢性疲労症候群予防策
- 睡眠時間帯
- 睡眠時間
- 生活リズム(睡眠と食事)
睡眠トラブルが重症化すると「小児慢性疲労症候群」を発症し、体や心にあらゆる不調が現れます。
小児慢性疲労症候群がさらに進行してしまえば、完治が難しいこともあり、将来への不安を抱えたまま大人への階段を昇って行かなければなりません。
そうならないためにはどうすればいいのでしょうか。
睡眠時間帯
正しい睡眠の時間帯
体内時計のズレが睡眠トラブルを引き起こし、ズレをリセットするには睡眠が鍵になることは前述しました。
しかし、やみくもに寝ればいいということではありません。
体内時計は夜に寝て日中に活動するように血圧や体温などを整えているので、それに逆らった生活は体内時計のズレを引き起こしてしまいます。
睡眠はPM7:00~AM7:00の間に摂ることがベストです。
睡眠時間
睡眠を摂ることは体内時計のズレを防止するのに必要なことですが、寝すぎて逆に体がだるくなったり頭が痛くなったりなどの不調を感じたことはありませんか?
そのせいで夜眠れなくなって夜更かしし、朝起きられなくなるなども経験ある人が多いのではないでしょうか。
睡眠の摂りすぎも睡眠トラブルに繋がるので、適切な年齢の適切な長さで摂ることが重要となります。
また、入眠時間や起床時間を一定にすることが望ましく、休日だけ長く寝るなどは睡眠トラブルのもとになります。
生活リズム(睡眠と食事)を整える
小児慢性疲労症候群を未然に防ぐためには体内時計のズレをリセットさせる必要があり、寝る時間や起きる時間を一定にするなどの生活リズムを整えることが重要です。
しかし、それには睡眠に気を付けるだけでは不十分で、朝食も大きな役割を担っています。
朝食を摂ることで体を動かすために必要なホルモンが分泌されたり血糖値が上がったりなどし、体内時計を正常に動かせるようになるのです。
こうやって体内時計と生活リズムが整えられると、小児慢性疲労症候群を防げる可能性が高くなります。
大阪府堺市の「みんいく(睡眠教育)」
堺市で実施された睡眠教育
- 睡眠朝食調査
- みんいく授業
- みんいく面談
- 「はよねるデー」の実施
大阪府堺市では、実際に学校をあげて睡眠教育に取り組んだ例があります。
良い効果も出ているので、どういった取り組みをしたのか、具体的に紹介していきます。
睡眠朝食調査
睡眠時間や朝食摂取の有無などを2週間生徒が調査票に記入するという睡眠朝食調査を定期的に実施しているそうです。
自らの生活を見える化することで、問題点などが浮き彫りになり、改善しやすくなります。
みんいく授業
睡眠がもたらす体への影響などを授業として行うことで、生活リズムを整えることの重要さを生徒に意識づけます。
取り組む必要性を感じられるので、漠然とただ知っているだけから実際に行動を起こしやすくなります。
みんいく面談
睡眠朝食調査を元に生徒と個人面談を行い、問題点や改善方法を話し合うそうです。
自分では気付けない睡眠の乱れなどを指導し、生活リズムが整えられるようにしていきます。
「はよねるデー」の実施
月に1回“はよねるデー”を実施し、家族そろって早く寝られるように家庭にも協力を呼び掛けているそうです。
そのために、宿題を減らしたり部活動を早めに終わらせたりなどの取り組みをしています。
大阪府堺市の「みんいく」効果
大阪府堺市みんいくの結果
- 成績アップ
- 不登校の減少
- 自尊心が高まる
そういった「みんいく」を取り入れた大阪府堺市の学校では、顕著に効果が現れたことがありました。
睡眠教育によって生活リズムが整った生徒たちにはどのような変化があったのでしょうか。
成績アップ
「みんいく」によって睡眠が充分とれるようになり、成績が大幅に上がった生徒がいるそうです。
日中に脳が活発に動くようになったことで、授業への姿勢や勉強の仕方が変わったのかもしれません。
また、実際に授業をする先生たちは“姿勢が良い生徒が増えた”など、効果を実感しているんだとか。
不登校の減少
原因不明の腹痛や頭痛、からだのだるさなどで休み続けていたり休みがちだったりした生徒が、「みんいく」によって登校できるようになるケースが多くあったそうです。
睡眠や食事によって生活リズムが整えられ、さまざまな不調が改善されたのでしょう。
自尊心が高まる
“自分には良いところがあるか”というアンケートを実施したところ、みんいく開始後は「はい」と答えた生徒が増加したそうです。
日中に元気に活動できることが自信に繋がったり、無気力や体調不良などでできなかったことができたりなど、睡眠が子供の心の成長にも重要なのがわかります。
まとめ
睡眠教育とは、睡眠の重要さを知識として取り入れ、睡眠や朝食と正しいタイミングで摂ることで生活リズムを整えることを目的としています。
原因不明の体調不良などは小児慢性疲労症候群の疑いがあり、それは日中の活動に大きな悪影響を及ぼします。
主な原因は睡眠トラブルで、スマホの普及や遅くまで塾に通うなど、現在の子供は夜更かしなど睡眠に関する問題を抱えがちです。
それを防ぐために大阪府の堺市では「みんいく」に取り組み、生徒の睡眠朝食調査やみんいく授業などを行い、その結果、生徒の成績アップや自尊心の高まりなどの効果が出ています。
睡眠や朝食から生活リズムを整えることで日中の体や心が整い、子供の成長に大きな効果をもたらすと考えられています。